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seiseki squareSSRブログ

2018/10/02

嘘つきミートパイ


 
 
 
 男子生徒の間で、あの娘がいつ頃から陰でミートパイと呼ばれていたかは判明しない。本町交差点角の洋菓子屋の娘だとは誰かから聞いたことがあった。
 出席番号が離れていたこともあって、ぼくとミートパイがクラスで席が近くになったことはなく、教室で会話する機会もほとんどなかった。しかし、たまたま部室が隣り合わせだったこともあって、放課後に限って、顔を合わせば話をするようになった。

 ある日の部活帰りに、なんでミートパイと呼ばれているのか尋ねた。
「ああ、あれね...。うちが洋菓子屋だっていうのは知ってるよね? うちで一番評判がいいのが三角形のミートパイで、中学三年の頃だったか、夕方、忙しい時に店を手伝ってたら、たまたまそれを買いに来たクラスの男子に見られたというだけのことなの。多分それからだよ、そんなふうに呼ばれるようになったの...。ミートパイを売ってたからミートパイ...。つまんない話だよね」と笑った。
「でも洋菓子屋さんていったら、普通、名物はケーキでしょ? なんでミートパイなの?」

 彼女は、亡くなった祖母がアメリカ人だったと打ち明けた ----- どおりで目の辺りの垢抜けた感じや肌の白さ、それと、いつだったか、腕の産毛が光線の加減で金色に見えてオヤッと思ったことがあったっけ。要するにミートパイはクォーターということだ。

 そして、
「うちの三角形のミートパイは、父がおばあちゃんを思い出すために作り始めたみたい」と続けた。
「昔、おばあちゃんが元気だった頃に聞いた話なんだけど、アメリカには近所でお葬式があると、お手伝いに行って、三角形のパイを作る習慣があるんですって。アメリカ全部でそうするのかどうかは知らないけど...。それでね、お葬式を出した家はいろいろ忙しくて、食事を作る時間もなければ、疲れて食欲もないだろうからと、お葬式前後の数日間は、作り置きしたそのパイを食事代わりにするんですって。だから、アメリカ人にとって三角形のパイはお葬式の時の特別な食べ物で、決して縁起の良いものじゃないらしいの。ホントは店でお金をもらって売るようなもんじゃないって父が言ってた。売っているのをアメリカ人が見たらびっくりするだろうって。でも父は、これを作って亡くなったおばあちゃんを思い出しているみたい。おばあちゃんが亡くなった時に父が初めて作ったのを憶えてる。そのあとチョットずつお店に並べてたら、段々評判の味になっちゃったみたい。でも、お店の包装紙にフランス語で『家族の幸せな食卓に...』なんて書いてあるのに、葬式饅頭ならぬ葬式パイじゃ『嘘つきミートパイ』だよね。内緒だよ、これ」

 それは、ぼくがミートパイと共有した、最初の秘密だった。




【The Free Design / I Wanna Be There】


 

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