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seiseki squareSSRブログ

2018/05/17

あなたのせいよ!


 
 
 貫録充分の初老の白人ウエイトレスに案内された席の隣は、やはり旅行中と見える身なりの正しい黒人一家だった。
 就学前の男の子が、他のテーブルの大人たちが食べているものを指差し、ルート・ビールとチリを食べたいと母親にぐずっていた。

 あれはネバダ州ヘンダーソンの街はずれの iHOP だか、FRIDAY'S だかのファミレスでのこと。
 場所柄、長距離貨物トラックの運転手たちの昼食で繁盛する時間帯だった。

 両親とも社会的に地位がある人のような言葉遣いで、声を押さえて話すように努めていた。
「だから、こんなにドライバーの集まるお店は嫌だって言ったのよ!」と母親。
「仕方ないだろ、ここしかなかったんだから...」
「だいたいこの子がチリだのルート・ビールだのって騒ぐのも、みんなあなたのせいよ!」
「・・・・」
「ジェレミー、ダメだって言ってるでしょ! チキン・バスケットにでもなさい!」
 母親は、子供をにらみつけている。子供は、相変わらずぐずるのを止めない。

 チリやルート・ビールを品の悪い食べ物だと言っているところを見ると、この母親は、それなりに良い家庭の出なのだろう。

 しばらく子供と母親の間で押し問答があって、「わかったわ。今日のところは、目をつぶる。でも、今度からは、ああ、もういいわ、好きになさい」
 母親が降参したのが聞こえた。

 例のウエイトレスが、隣のテーブルに注文を取りにきた。
 父親が注文を出す。
「ターキー・バーガーふたつとチリ・ビーンズ。それにコーヒーをふたつとルート・ビール。ああ、それと、クリスピー・ビーンズ・フライをひとつ、お願いします」
 ウエイトレスは注文を復唱した後、ウインクしながら「坊ちゃん、ここのチリ・ビーンズ、とっても美味しいわよ」と言って、こちらのテーブルに移ってきた。

「注文、決まった?」
「ええ、ぼくにもチリを下さい。あと、チキン・サラダにクラッカーとコーヒー」
「ドレッシングは?」
「ウ〜ン、この『ロウ・ファット・サラントロー・ライム』のサラントローって、コリアンダーのこと?」
「そうよ、試してみる?」
「ええ、そうします」
「旅行? ラスベガス? 泊まるの?」伝票に注文を書き込みながら彼女は聞いた。
「スターダストに予約があります」
「ワオ、すごいところに泊まるのね」

 窓の外の95号線の交通量は、昼時らしく、いくらかおとなしくなったようであった。



【Carlene Carter / I Fell In Love】

 

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